Mz29.デバッグの訪問*********************

バッグは得意そうに笑っているのです。
それはいつの間に入ってきたものか、
デ・バッグというマグロ漁夫の河童が一人、
私の前に立たずみながら、何度も頭を
下げていたのでした。
「おいデバッグ、どうして来た?」
「何です? 冷たいですぜぇ。見舞いに来たんでさぁ。
他に何か理由などあるものですか。何でも旦那、
ご病気だとかいう話じゃありませんか?」
「ほおぅ、それにしてもよく来られたなぁ。」
「何、造作はありません。東京の川や側溝は、
河童にとっては往来も同じですから。」
私はデバッグの水かきをしげしげと見つめ、
今さらながら、河童が両生類だったことを思い出した。
「・・・・・・しかし、この辺には川はないがね。」
「いえ、こちらにあがったのは、上下水道の管を
いろいろに巡ってきたのです。それからちょっと、
消火栓をあけて――」
「何だって! 消火栓をあけたんだって?」
「へい、なんでもないことでさぁ。河童の世界にも
機械屋は居まさぁ。」
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