○☉ 6 ◎☯●○☉◎☯●気楽な先師

あ、「荘子の泳法」でした、でした。
それは、

激流の大河の前で、渡って向こう側にいかなければ
ならない青年が立たずみ、困っていた。
その横を一人の老人がそろそろと進み出てそのまま
川に入り、泳いで行ってしまった。
身の細い、頼りなげな、普通の老人である。
青年は、溺れやしないものか、また溺れたら
どうやって助けたらいいのか、気が気でなく
見守っていると、激流の波間に案の定、
老人は消えてなくなった。
かと思えば、また浮上し、また沈み、また浮上した。
その顔はよく見ると、楽しんでいるッ!
そうこうする内、ついに老人は対岸に泳ぎ着いてしまった。
そして対岸の者に何やら渡すと、また川に飛び込んだ。
沈み、浮かび、流され、泳ぎ、
見る目の無い者がそれを見れば、
やはり溺れかかっているように見える。
が、またしてもそうこうしている内に、
こちらの岸に泳ぎ着いてしまった。
目を丸くして青年が見ていると、
“お前はさっきから何をやっているのだ?”
と先に質問されてしまった。
“いえ、何って、このような大河をいかにして
渡ろうものか考えあぐねていたのです。”
“アホかッ、お前は! 渡らにゃいかんなら、
渡ればよいのだ。何をためらっておる?”
“しかし、ただでさえ渡るのが困難な大きな川であります。
それが台風を受けて更に激しく荒れた流れとなっております。
だから、この流れが収まるまで待つか、
上流の狭い地域にまで大回りするものか、
考えていたのです。”
“バカだよ、お前は! 渡らにゃいかんなら、渡れッ!〈;巻き舌〉
それとも、お前はヒマ人なのか?”
“いえ、私は先を急いでいるのです。”
“なら、なおさらだ。すぐに飛び込めッ!”
“でも、溺れてしまいます。”
“小ざかしいことをあれこれ抜かすなッ!
お前ら若者は理屈ばっか云うばっかのチューバッカで
――〈え、『スターウォーズ』?〉って突っ込め!――、
腰が重く、一向なにひとつ自ら進んでやろうとせん。
そんなことで何が進展するというのか?
思い切って飛び込め!
しからば激流の中の泳法も得ん、というもの!”
“そういうものでしょうか?”
“しかり。弱気を思索に美化するなッ!
日本の大正期の小説家も云っている;
《我々は泳ぎを知らずに海の真っ只中に産み落とされる。
しかし、それで泳げぬなら溺れ死ぬだけ。
生きるためには、無から有を生んででも、
何が何でも生きなければ生きられぬのだ》、と。”
“逆説ですか?”
“そうだ、いい所に気が付いた。
もう、お前は泳げるだろう。”
“ハイ、分かりました。私も泳ぎましょう。
有難うございました。”
――そして青年は泳ぎ進み、
大木が流れてきて(カルロス・)ゴーンッ!と激突し、
意識を失い、ぶくぶく沈んでいくのでありました。
岸で見ていた老人いわく、
“それみろ! だから、いわんこっちゃない。
世の中、そんなに甘くねえんだよッ! か〜、ペッ!”
そして老人は去っていきました。
.                         ――おしまい。

(;→これは原文と一字一句まちがっていないものと想う。
.  自分の記憶力に我ながら感心する。)
(;→じゃあ芥川龍之介やらカルロス・ゴーンは何なのだ?って?
.  凄いよね? ノストラダムスアガスティア並だよね?)
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