2.トーマス・グレイ-------------------------------

イギリスの叙情詩人、1716〜1771。ケンブリッジ大学の近代史・近代語教授だった。「ヨーロッパ随一の知性」といわれて畏れられたが(;→後のアナトール・フランスや、ホルヘ・ルイス・ボルヘスのようだ)、結局本人で生前に発表したものは300ページ足らずの一冊かぎりであり、しかもその世間的評価は決して高くない。――どうしてこうなのだろう? ソクラテスブッダもキリストも、老子もエピキュロスも、思いっきり飛んでソシュールにしても、全く無作か、極めて寡作である。後代のこと=他人のことなど、まるで考えないようだ。そういう点、禅のようにドラスティックだといえる。しかも遺されるのは妹だの知友だのに宛てた書簡など「片鱗」なのだ。精髄ではなくて。あ、もしか、気どってる? なら、滑ってるよ、思いっきしッ! いや、人の記憶という“石版よりも確かな記録媒体”に残していくのだ。未練を残さすヒドイ人・・・・・・ 〈ここで個人名を叫ぼうかと思ったけれども、そういうのはネチケット違反になるので、連想容易な架空名にしてもここでは控えておこう。〉――。で、グレイの遺した作品は『エレジー』一篇のみ後代によく伝えられ、日本では『墓畔の悲歌』と訳出されている。本題は『Elegy written in a Country Churchyard』(田舎の教会墓地で詠んだ悲歌・挽歌)だから。
.