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そのときも、前進できずに苦しんだ。
で、沖で崩れなかった、小さい目
――といっても余裕でW・トリプルある――
の波に二度ほどトライした。
〈よし、なんとか行けそうだ。〉
そしてアウト(沖)へ向かって進もうとしたが、
横へ横へ行く。
うねりのハザマで前方もよく見えない。
見えてるのは波の側面。もしくは暗雲の空。
サーファーは唐突に現れる。
よってアウトから乗ってきた上級者をよけるのも
ままならず、つまり自由が利かず、
単純にカレントの巻き込みで横へ流された。
そしてテトラを思案しはじめた。
〈このまま行けば衝突するのかな?〉
でも、きわどい所である。
なんといっても一応アウトを目ざして進んでいたのであるから、
その突端よりも沖にいるには違いない。
〈たぶん、かわしてずっと横へ横へ流されるのだろう。〉
と思ったが最後、大きくうねって大波が来て、
そいつにグワッと運ばれてダーンッ!とテトラに
叩きつけられた。
〈うわぁ、ボードがぁ・・・・・・〉
自分の身のことよりも、買ったばかりの
高価なサーフボードの傷つくことの方が気になった。
足首に巻き付けられたリーシュコードに結び付けられているために、
それを半径としてゴンッゴンッとテトラに叩きつけられている。
テトラに登ってボードを引っ張り上げようとしたとき、
再びパワーウェーブが私を襲った。
足からすくわれ、ボゴボゴボゴボゴ・・・・・・
〈ウソだろ?〉
私はテトラの間、細い隙間の中に入り込んでしまった。
〈ワワッ・・・・・・〉
背中が擦れて傷む。
コンクリ製のテトラには、牡蠣や富士壺がビッシリだった。
真夏でやはり暑いためにウエットスーツを着ていなかった私は
全身に引っ掻き傷を負ったに違いなかった。
あちこちの打撲も傷む。
〈脱出しなけりゃ。〉
手がかり足がかりを探したが、
そういう場合には頼りにならない貝類である。
次の波が来た。
筒状の天井から何十トンもの大量の海水が降ってくる。
地獄だった。
ずっとずっと息が出来ず、〈あ、死ぬな〉と、
死を覚悟した。
考えられないほど長い間の水攻め。
は、それでも一応やんだ。
〈このチャンスを逃がしたら間違いなく死ぬ。〉
もう私はナリフリ構わず、必死でテトラを駆け登った。
滑って頼りにならない貝類を、我が身に切り込ませつつ、
無我夢中で。
そして強引にボードを引きずりながらテトラの峰を走った。
ギャラリーたちが歓声を上げた。
いや、悲鳴だった。
全身、血だらけの青年が必死の形相で現れたわけだから。
海水で薄まって、ボタボタ垂れる。
スリラー映画の1シーン。
その内の一人に傷の程度を訊いた。
「いやぁ、どうもこうも」と云いながら、
相手は自分の手を洗ってから、
丁寧に私の背中の貝殻類を取り除いてくれた。
そして、あまりにひどいから救急車を呼ぼうかと云ってくれたが、
大事になるのも恥なので自分で行くから大丈夫と言い張って、
私はその通り自分で病院に向かった。
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